ミルク茶房さん家

銀/魂の桂さん及び、桂受け関係の二次創作置き場

【小説】3Z土桂

徐々に書いていこうかなと…!
3Z土桂の青春感…好きですっ!!!


ある昼下がりの廊下でのことだ。
いつも通り一服から戻る道すがら、階段を上がる最中に誰かの怒号が聞こえてきた。
よくよく聞いてみると馴染み深い声が
「だからお前のその髪は違反なんですー!!!!!」と責め立てていた。
あの低く、それでいて感情のこもった声の持ち主は、俺と同じ風紀委員会の近藤さんのものに間違いないだろう。

とすれば、会話の相手はあいつしかいない。
男にも関わらず髪を伸ばした変人なあいつ。それでいてチャラチャラしている訳ではなく、あいつと言えば長髪 というのがセオリーになるほど自然な様だった。
だからと言って、校則で男子の長髪が認められているはずもなく、度々このような騒ぎが両者間で行われているのだった。

一方は近藤さんであるし、俺も風紀委員である以上一度あいつに言ってやる必要があるのかもしれない。
そう思い、残りの階段をかけあがり廊下に出ていった。

「ならば、俺も学級委員として言わせて貰おう。貴様こそその髭の処理をキチンとしたらどうだ?それにお妙殿への強烈な執着ぶり…見逃すのもそろそろ限界なのだがな」
廊下を曲がって聞こえてきた声はあいつのものだった。近藤さんのように感情的な声ではなく、極めて落ち着いたその声にはどこか説得力があった。
「ひ…髭が生えるのも恋に落ちるのも生理現象じゃねーか!!!」
「ならば髪が伸びるのも生理現象だろうが!!何度もしつこいぞ!!」

そう言って顔を近付けながらいがみ合う両者を見たとき、なぜかもやっとしたものを感じたことを覚えている。後々考えてみれば 、あれは小さな嫉妬だったのかもしれない。
俺はモヤモヤを抱えながらも両者の間に割って入った。

「おい落ち着けテメーら」
そう言って二人を引き剥がす。重い近藤さんの身体は小さく後ずさっただけだったが、薄い彼は大きくよろめいてしまったようだ。バランスを取り直すと同時にギロリと睨まれた。

「チッ…厄介な奴が増えたか」
「ったく…近藤さんも近藤さんだが、オメーもオメーだぜ、桂」
そう名前を呼ぶと、桂は少しだけ顔をしかめて俺に向き直る。
「先に突っ掛かってきたのは近藤の方だが」
「それはお前がチャラチャラ髪を伸ばしてるからじゃねーか!!男は黙ってスポーツ刈りだよなー、トシ!」
俺の後ろに隠れた近藤さんが横から顔を覗かせてそう叫んだ。
「いや、俺もスポーツ刈りじゃねえんだけど…」
そう言いながらも、同じ風紀委員である近藤さんの肩を持つ。
「だが近藤さんの言う通りだぜ、桂。風紀委員として言わせてもらうがテメーのその髪は学校の風紀を乱してる。髪を切ったら死んぢまうって訳でもねーんだろ?なんでそんな頑なに伸ばしてんだ?」
しっかりと彼の顔を見ながら話すと、桂はフンと鼻をならして
「貴様らの言うことはいつもくだらん屁理屈だな。俺からすれば、男ならば髪を切るべきという先入観こそが実にくだらんのだ。
確かに貴様の言う通り、俺は髪を伸ばさなければいけない訳でも、髪にこだわりが有る訳でもないことは認めよう。だがだからと言って、それが髪を切る理由にはならんのだ」

ぶっ飛んでやがる…俺は素直にそう感じた。
彼を世間の常識で咎めようとしても、それは到底不可能なことだと悟ったのだ。何故なら、彼は世間の常識さえも論破する自論を持ち合わせていたからだ。
確かに桂の言うように、男が髪を伸ばすのはおかしいといった認識は間違っているように思える。だがやはり、普通は世間体を気にするものだろう。しかし桂は違った。自分が正しいと思ったらそれを貫くのだ、それがたとえ世間から変に思われようと である。

「分かったか土方、何度言われようと俺の意見は変わらんぞ」
腕を組んでそう話す桂は、どこか挑発的だった。上手く反論できずにムッとする。俺の影に隠れた近藤さんも負けじと言葉を探しているようだった。
「それにだ土方、貴様の喫煙こそ立派な校則違反ではないのか?」
「んな…!」
間髪いれず入るツッコミに、非常に痛いところを突かれた。
「それは…」
狼狽える俺を他所に桂が続ける。
「法律では喫煙は20歳からと決まっておる…が、まぁそこはやんごとなき事情があるから見逃してやろう。
しかしだ、禁止されているものを堂々と学校で吸うのはいかがなものかと思うがな」
「し…ししし仕方ねーだろ!!!吸っとかなきゃやってらんねーんだからよっ」
「理由にすらなってないな」
「…っ…」

余裕そうな表情で桂が俺を見ている。火種がこちら側なだけに、このまま引き下がる訳にはいかなかった。
「んならこういうのはどうだ…?」
「ん?なんだ?」
桂が小首をかしげた。胸まで伸びた髪もそれに伴ってさらりと揺れる、本当によく手入れされた髪だ。
「俺はこれからの1週間を禁煙ウィークにする。だから俺がその1週間煙草を吸わなかった時には桂、テメェも髪を切れ」
「はあ!?何を言っているのだ貴様は」
俺の唐突な賭けに、桂が目を見開く。
動揺した桂を見たのははじめてではないだろうか。
「いい交換条件だと思わねーか?俺がやり遂げればテメーの学級委員としての面目も立つし、俺としてもテメーを注意する手間が省ける」
「それは…本気で言ってるのか?」
桂の目が厳しくなる。まるで俺を信頼していないようだ。
「ああ、本気だ。なんなら煙草とライターをテメーに預けてもいいぜ」
そう言って俺は数本だけ入った煙草の箱と愛用のライターを桂に差し出す。受け取った桂は更に顔をしかめた。何か不都合があったのだろうか。
「なんだこの気色の悪いライターは…。
持っているだけで俺が趣味悪いみたいに思われるぞ」
「テメーは元から十分悪趣味じゃねえか。あんな化け物ペンギン溺愛してるんだからよ」
「化け物ペンギンじゃないエリザベスだ」

「とにかく、だ」
ゴホンと咳払いして俺は続けた。
「それを受け取ったってことは、勝負を受けたってことだよな、桂。俺も男だ、テメーの目を盗んで吸ったりはしねぇよ」
俺の誠意が伝わったのだろうか、桂は眉間の皺を緩めると、再び挑発的な笑みを浮かべて
「ふん…面白い、のってやろうではないか。貴様が禁煙なんてできるはずないからな」
そう言って笑うと、俺を指差して
「その代わりだ、もし貴様が期間内に一度でも煙草を吸ったなら、俺の言うことを一つ聞くと約束しろ」
と言い放った。
「んな…!なんで俺がそんなことっ…!」
「吸わなければ問題ないだろうが」
そりゃそうなんだが…。
桂のこの態度はどことなく気に食わない。先程までは俺がこいつを追い詰めていたはずなのに、気づけば追い詰められたのは俺の方だった。この毅然とした態度を崩してやりたい、屈伏させてやりたい、そんな気持ちが胸を満たした。
「そりゃそうだな。まあ俺がやり遂げた暁にはテメーをさっぱりしたスポーツ刈りにしてやるからよ」
この台詞すらも負け犬の遠吠えに聞こえるのだろうか。桂はもう一笑いすると、
「そんな日が来ればいいがな」と言い残して去っていった、その綺麗な髪を靡かせながら。

「すまねぇなあトシ、面倒ごとに巻き込んじまって…」
俺の後ろから出てきた近藤さんが頭を掻きながら申し訳なさそうに言う。
「気にすんなよ近藤さん、あいつにゃ前々から言ってやろうとは思ってたしな」
そう言いながら学ランのポケットを探るが、突っ込んだ手は宙をかいた。そういやさっき桂に煙草を預けたばっかじゃねえか…どうやら直ぐに煙草を探るのが癖になっているらしい、先が思いやられた。
「そっか…ならいいんだが…。じゃあトシ、あいつをギャフンと言わせてやってくれ!」
近藤さんが背中をバンっと叩く。
「何言ってんだ近藤さん、あんたも連帯責任で一週間ストーカー禁止だぞ」
「えっ……」
「そっちは任せたぜ、近藤さん」
「え、あ、ちょ、トシっ」
こうして、背中に近藤さんの声を感じながら、俺の禁煙週間は幕を開けた。